もし家を建てるなら
家の冬の寒さ対策には、何はともあれ窓の断熱性を上げることが先決です。手軽にできることから専門業者による工事まで色々ありますが、今回は、自分でできる寒さ対策ごとの概要とメリット・デメリットについてご説明します。窓の寒さ対策をしっかりした上で、壁の断熱性向上や暖房設備の検討をすることで、効率的で高い費用対効果を得られやすくなります。
1. 窓の寒さ対策の種類と特徴
今回ご紹介するのは、費用と見た目(デザイン性)のバランスを考えた現実的な方法として2つに絞りました。他の方法を選ばなかった理由も述べています。
①断熱シート
極薄の透明性フィルムを何層か重ねたシートタイプの製品をガラスに貼り付ける方法です。特殊な工具を用いず、霧吹き、雑巾、カッターなど日用品でできる手軽さと、1㎡当り1000円台からある多彩なラインナップで比較的安価に済ませられることが特徴です。また、製品によっては目隠し効果や遮熱効果を持つものなど、断熱性能以外の機能を備えたものもあります。断熱性能を表す指標の一つにU値という値があり、一般的な板ガラス1枚のサッシのU値(※)は約0.6W/㎡Kですが、それに断熱シートを貼ると約0.46W/㎡Kとなり断熱性が約23%向上します。
窓の寒さ対策としての断熱シート
※U値:熱貫流率。その製品や屋根、壁などの部位の断熱性を表す。下部「2.4. 熱貫流率」参照。
②内窓
既存の窓の内側(部屋側)にもう一つの窓を取り付ける方法です。既存のサッシと内窓の間にできる空気層が断熱層となり、室内から温度が逃げるのを抑えます。ホームセンターなどの材料で自作するものから、サッシメーカー製の本格的なものまで幅広い選択肢があります。中でも、ホームセンターなどの材料で自作できる内窓は手作り感があるものの、高い断熱性を安価に実現できるのが魅力です。窓面板を複層化したり中空ポリカーボネートやアクリルガラスにしたりまたフレームを樹脂製にしたりすることで、断熱性を高めることができます。
DIYで作製した窓面板が中空ポリカーボネートの内窓
サッシメーカーの内窓(出典:YKK AP プラマードカタログより)
その他の方法と選ばなかった理由
・隙間テープ
冷気の流入など体感で分かるほどの隙間を埋めるには有効ですが、築30年以内くらいの住宅ではある程度気密性があり、隙間風対策は主な寒さ対策にはならないため。上記の様にきちんとした断熱対策を講じた上で更に気密性を上げるために採用を検討すべき。(パッキンでも同じです。)
・カーテン
一定の効果はありますが、カーテンの周囲の隙間を通じた屋内外の熱の出入りがあり、根本的な対策にはならないため。ただし、他できちんと断熱対策をした場合は、その補助対策としては有効です。
・プチプチシート
それなりに効果を体感でき安価で手軽ですが、特に窓枠がアルミの場合、枠にも貼らないと効果を感じづらい上、室内外からの景観を著しく低下させ暮らしの品質を落とすため。
・ガラス、窓の交換
ガラスを複層化したり窓自体を高断熱製品に交換するのは、見た目を犠牲にせず高い断熱効果を得られ室内の断熱性の向上には理想的ですが、専門的な技術を要し費用も高額になるため。
ただし、最近の製品では、既存の窓枠を再利用することで外壁を傷付けない工事が可能なものもあるので、資金的な余裕があれば検討しても良いでしょう。
2. 窓の寒さ対策に必要な熱の基本知識
建物内から屋外へ熱が一番たくさん出て行く部位は、窓です。それは、物質自体を熱が伝わる「伝導熱」によるものです。熱の出入り、つまり移動する熱には、放射熱、伝導熱、対流熱の3種類がありますが、家の寒さ対策は、まず窓の熱伝導対策をすることが最優先です。
上記の断熱シートと内窓による対策は、共に熱伝導対策です。また、今回ご紹介を見送ったその他の方法の内、隙間テープ以外は全て熱伝導対策です。隙間テープは「気密性を上げて【対流】による温度低下を防ぐ。」対策となります。
次に、窓の寒さ対策を考える上で、以下の様な熱の基礎知識を知っておきましょう。
2.1. 放射熱
放射熱は、熱源から離れていても感じることのできる熱のことです。例えば、太陽や石油ストーブ、薪ストーブ、焚火などから感じる熱です。放射熱は、ガラスの様な透明度の高い物質では相当な量の熱が透過しますが、一般的な住宅の屋根や外壁ではそこに使われている材料によってほとんどの放射熱が遮断されます。冬場に直射日光が当たる部屋の外壁の窓が大きな場合と小さな場合で、室内の温度がずい分違うのはこの為です。(放射熱は、輻射熱ともいいます。)
2.2. 伝導熱
物質自体を伝わって移動する熱のことです。例えば、2つに仕切って完全に密閉した箱の中の空気に温度の高い方と低い方があり、熱が一切外部に逃げないとすると、箱の中はいずれ温度差の中間辺りの温度で均衡します。これは、仕切りに使った材料に高い方の温度が伝わり、温度の低い方へ熱が移動するためです。建物から熱が出て行く場合の大半はこの熱伝導によります。
2.3. 対流熱
空気の流れに乗って移動する熱のことです。例えば、暖かい室内で窓を開けると、暖かい空気がそこから逃げて室内の温度が下がることです。木枠でできた窓を使っている様な古い家では、材料が痩せたり建付けが悪くなったりすることで、家自体に相当な隙間が発生するので、隙間対策が効果を発揮することもありますが、この30年以内くらいに建てられた住宅では、あからさまな隙間は減っているので、伝導熱への対策の方が寒さ対策には有効になります。
2.4. 熱貫流率
熱の伝わりやすさを示すには熱貫流率を用いU値(ユーチ)で表します。これは、室内外の温度差が1K(1ケルビンの差=1℃の差)の時に1㎡の壁を通過する際のワット数を表し、単位はW/㎡K(ワット毎ヘイベイ毎ケルビン)です。U値は値が小さいほど、断熱性が高いということになります。一方で、熱伝導率という似た様な指標がありますが、こちらは製品や部位ではく、アルミや樹脂など材料そのものの熱の伝わり方を表す別の性能値です。
3. 窓の寒さ対策のメリット・デメリット
断熱シートと内窓には、施工性や費用、機能などについての違いがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
3.1. 断熱シートのメリット・デメリット
・メリット
①簡易な施工性:霧吹き、カッター、雑巾、定規だけで施工できる簡易性は、専門業者を必要とせずDIYでも十分に設置できます。
②安価:1㎡当り1000円台の安価なものからあり、腰窓サイズのサッシであれば数千円程度の出費で済ませることができます。
③多彩なその他の効果:半透明に着色したものや屋外の景色を反射する機能など、室内を見えにくくする効果や夏の陽射しによる放射熱(輻射熱)の侵入を減らし、室内の温度上昇を抑えられる遮熱効果のあるシートもあります。また、ガラスを割れにくくする飛散防止効果もあるので、災害やある程度の防犯効果が期待できます。
・デメリット
①アルミ枠の結露:シートが貼られないサッシ枠の断熱性はそのままです。材質が熱伝導性の高いアルミ製の場合、暖房した部屋ではサッシ枠に結露が発生しやすくなります。
②劣化:シートは、ガラスほどの耐久性がなく経年劣化します。半年程度の期間を経ると交換が必要になります。
③ガラス種を選ぶ:網入りガラスやペアガラスなど特殊なガラスに貼る場合は、それに適したシートを選ぶ必要があります。一般的なシートを貼るとガラスに温度差の違いが出る部分が発生し、ヒビや割れなどガラスを破損してしまう場合があります。
3.2. 内窓のメリット・デメリット
・メリット
①DIYできる:断熱シートを貼るよりも手間は掛かりますが、専門業者による工事が必要なガラスの交換や窓の交換と比べれば、ホームセンターの材料や通販のキットなどで比較的安価かつ手軽に自作できます。
②窓面板の選択肢:室内に設ける窓なので、窓面板をガラス以外の材料を選択することで、断熱性能やコストを調整することができます。例えば、中空ポリカーボネート板は安価で高い断熱性があります。
③防音効果:メーカー製品か自作でも材料を選びしっかりと作った内窓は、断熱層と内窓自体が音の緩衝帯となり一定の防音効果が出ます。
・デメリット
①見た目:既存サッシをそのままに、その内側にもう1つの窓を取り付けるので、いかにも後付け感があり、室内からの見た目が気になる場合もあります。
②施工性:ガラスや窓の交換工事以外の寒さ対策と比べると、DIYなら採寸、材料購入、製作、取付けといった複数の工程が必要です。ただし、ある程度本格的な製品であれば、サッシ枠の取付けに工具が要る程度なので、それほど施工性が悪いとまでは言えません。
4. 新築やリノベーションする時が断熱化の最大チャンス
ここ10年ほどで、住宅の断熱性能への関心が高まってきており、既存の住宅でも断熱性を上げることへの需要が増えています。しかしながら、既に建っている建物の窓の断熱対策は、見た目や性能、実際の効果の面で、新築やリノベーションの様な大きな計画の時に実施する断熱計画に比べて限界があり、費用対効果も決して良いとは言えないことにもなりかねません。
もし、これから住宅取得をお考えであれば、新築や中古住宅購入リノベーションの際に、十分な断熱性能を発揮できる様に建築会社等とお話しをしましょう。
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